乳酸は筋肉を動かすエネルギー源を作るため、糖を分解するときにできる生成物です。
体の筋肉を動かすエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の合成に使われます。
乳酸はATPを合成するために筋グリコーゲンが分解される過程で作られる代謝産物です。
乳酸は老廃物ではなく筋肉を動かすエネルギー源として利用される疲労を防ぐ物質です。
筋肉疲労のメカニズム
筋肉を収縮させるためのエネルギーにはATPが利用されます。
ATPは3つのリン酸から構成されています。
筋収縮はATPの1つのリン酸が離れてアデノシン2リン酸(ADP)に分解するときに生じるエネルギーを利用しています。
もともと筋内に貯蔵されているATPはごく少量なため運動ですぐに消費してしまいます。
したがって、運動を続けるためには、ATPの再合成が必要になります。
筋肉疲労はATPの再合成や産生の不足などに関連して起こります。
筋肉疲労の原因
今まで長い間、筋肉疲労の原因は老廃物の乳酸の蓄積にあるとされていました。
しかし最近では以下のようなことが原因と考えられています。
- 乳酸の生成過程で発生する水素イオンの影響で体が少し酸性に傾く
- エネルギー源である筋グリコーゲンの蓄えの減少
- リン酸などの物質の貯蓄
筋肉疲労は個人差もあり様々な原因が重なって起こるものといえます。
したがって現在は乳酸が筋肉疲労の直接的な原因ではないと考えられています。
筋肉疲労の回復方法
筋肉疲労の効果的な回復方法は、疲労した筋肉の血液循環をよくすることです。
血液循環をよくする方法には以下のようなものがあります。
- 運動した後のストレッチ(クールダウン)
- アイシング(熱を持っているときなど温度を下げエネルギーの温存を図る)
- マッサージ(血行促進や代謝向上)
- 入浴(筋肉の状態が落ち着いているとき)
ストレッチとアイシングや入浴とマッサージなどを組み合わせて行うとより効果的です。
乳酸は疲労物質ではなく疲労を防ぐ物質です。
筋肉からカリウムが漏れ出すと筋収縮を阻害します。
乳酸はカリウムが漏れ出して起こる筋収縮を阻害するのを防ぐ働きをします。
乳酸はその他にも以下のような役割や働きがあります。
- ミトコンドリアで使われてエネルギー源として再利用される
- 運動時の脳のエネルギー源となる(平常時は糖がエネルギー源)
- 血管新生や傷の修復
- 遺伝子発現調節
- 心筋の収縮
乳酸が溜まる原因・仕組み
乳酸は筋グリコーゲンの分解時に一緒に作られます。
乳酸は短距離走など激しい運動で運動強度が上がるとより多く作られます。乳酸の生産量が消費量を上回ると乳酸は蓄積することになります。
作られた乳酸はミトコンドリアを通してエネルギー源として再利用されます。
したがって運動で上がった乳酸がずっと溜まるわけではありません。乳酸が溜まりすぎたときの症状
かつては、乳酸は運動で筋肉が疲労すると「乳酸が溜まった」と表現されていました。
しかし現在では乳酸は疲労物質ではなくエネルギー源として認識されています。運動で乳酸が溜まったとしても、30分も経てば乳酸はもとのレベルに下がります。
筋肉疲労などの運動時の疲労は乳酸以外のことが多く関係していると考えられています。乳酸を溜めない方法
乳酸を溜めない方法として「乳酸性閾値(LT)」の利用があります。
乳酸性閾値(LT)は全身の持久力を示す体力指標や健康づくりとしての運動に利用されます。
血中の乳酸濃度は乳酸の生産量と消費量の差が濃度としてあらわれます。乳酸の生産が上がっても筋肉の消費も同様に上がれば乳酸の血中濃度は変わりません。
乳酸性閾値(LT)は血中濃度が急増する領域を示し、個々の適切な運動強度がわかります。乳酸の基準値・正常値
血中乳酸濃度は安静時でも4~16mg/dL程度あります。
健康づくりの運動や生活習慣病の予防・改善のための運動強度の指標があります。運動強度の指標として血中乳酸濃度が急増する領域を「乳酸性閾値(LT)」といいます。
「乳酸性閾値(LT)」は運動強度としてきわめて適したものとして用いられています。乳酸値が高くなる原因
血中乳酸濃度は乳酸の生産量と消費量の差で変動します。
つまり乳酸の生産量と消費量が同等だと血中乳酸濃度は変動することはありません。
血中乳酸濃度が上昇する原因には以下の2つがあります。- 強度の高い運動(LTを超える運動強度)
- 酸素の供給不全
血中乳酸濃度は以下のような疾患で酸素の供給が需要よりも下回ると上昇します。
- 敗血性ショック
- 低酸素血症
- 貧血
したがって血中乳酸濃度の上昇は治療介入の判断としても使われます